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クローン病患者のmanagement指針案

(下山班:平成13年度)

 本指針は,クローン病の日常臨床上問題となる点につき,診断基準や治療指針では十分に言い尽くせない部分を,実際面から解説するものである.

T 診断の手順
1) 臨床的にクローン病を疑う
   10歳代後半から20歳代に好発し,男女比は2:1である.
 腹痛,下痢,体重減少,発熱,肛門部病変を主訴とし,慢性に経過する.時に虫垂炎様症状,腸閉塞,腸穿孔,大量出血で急性発症することもある.稀に腹部症状を欠き,肛門部病変や原因不明熱で発症することもある.

2) 確診のための診察/検査

 
  1. 理学的所見
     成長障害,貧血,腹部圧痛/腫瘤,外瘻,浮腫,など.

  2. 肛門部病変
     難治性痔瘻,肛門周囲膿瘍,裂肛,潰瘍,肛門皮垂,など.

  3. 臨床検査
     炎症反応:血沈亢進,CRP上昇,α2グロブリン増加,白血球数増加,血小板数増加,など.
     低栄養状態:血清総蛋白/アルブミン低下,血清総コレステロール低下,rapid turnover protein(レチノール結合蛋白,プレアルブミン,トランスフェリン)低下,など.
     鉄欠乏性貧血:赤血球数低下,ヘモグロビン低下,血清鉄低下.
      感染性腸炎の除外(特異菌陰性,虫卵陰性,エルシニア抗体陰性,アメーバ赤痢抗体価陰性,など)

  4. 画像検査
      口腔から肛門まで全消化管が検索対象となる.病変の好発部位である下部消化管から検索すべきだが,施設の都合で上部消化管からでもよい.大腸は注腸X線検査,大腸内視鏡検査+生検,小腸は二重造影法,上部消化管は内視鏡検査+生検,(X線検査)を施行する.大腸の検査に際しては,通常の前処理を施行する.腸閉塞症状がある時は微温湯浣腸後に,激しい下痢/下血や一般状態不良の症例では,無処置で無理せず,可能な範囲内で検査を施行する. 小腸検査は腹部単純X線検査で腸閉塞症がないことを確認してから施行する.
     下部消化管では,縦走潰瘍,敷石像,腸管の狭小/狭窄,内瘻(腸と腸,膀胱,膣など)外瘻(皮膚瘻),不整形潰瘍,多発アフタなどを非連続性(正常粘膜をはさんだ病変;skip lesion)または区域性(正常な直腸粘膜と口側粘膜にはさまれた病変;segmental lesion)に認める.胃・十二指腸病変としては,多発アフタ,潰瘍,狭窄,敷石像などを認める.
     初期像としては血管透見像を有する粘膜に多発アフタのみのこともある.色素撒布により,所見は明瞭となる.
     症状が重症で,X線/内視鏡検査を施行できない場合は,腹部超音波検査,CT,MRIなどにより,腹腔内膿瘍や腸管壁の肥厚をチェックする.

  5. 生検
      初回内視鏡時や確診に至らない症例では,必ず生検を施行する.病変部からの生検は,敷石像頂部や潰瘍の辺縁,小潰瘍やアフタでは病変の中心より採取する.一見正常に見える直腸や病変間からも採取する.非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を検索する.より深く粘膜下層を含んだ組織を多数個採取し,連続切片標本を作成すると検出率は上昇する.
U 重症度分類(活動指数)
  IOIBD assessment scoreとCrohn's Disease Activity Index(CDAI)を目的に応じて使い分ける.
1) IOIBD assessment score
   後向き評価でも簡単に算出できる.栄養療法により速やかに消失する項目となかなか改善しない項目がある.0,あるいは1を臨床的緩解とする.

2) Crohn's Disease Activity Index(CDAI)

 

 前向きに1週間の評価が必要で,計算も複雑である.しかし,世界的に広く用いられており,新しい治療法の開発などの臨床研究では,これを用いるべきである.150未満:緩解,150-220:軽症,220-300:中等症,300-450:重症,450以上:激症とする.

 
IOIBDの求め方
1. 腹痛
2. 1日6回以上の下痢あるいは粘血便
3. 肛門部病変
4. 瘻孔
5. その他の合併症
6. 腹部腫瘤
7. 体重減少
8. 38ºC以上の発熱
9. 腹部圧痛
10. 10g/dl以下の血色素

各1項目のスコアを1点とする.2点以上活動性.


CDAIの求め方
X1. 過去1週間の軟便または下痢の回数 ×2 = y1
X2. 過去1週間の腹痛
0=なし、1=軽度、2=中等度、3=高度
×5 = y2
X3. 過去1週間の主観的な一般状態
0=良好、1=軽度不良、2=不良、3=重症、4=激症
×7 = y3

X4.

患者が現在持っている下記項目の数
1) 関節炎/関節痛 2) 虹彩炎/ブドウ膜炎 3) 結節性紅斑/壊死性膿皮症/アフタ性口内炎 4) 裂肛、痔瘻または肛門周囲腫瘍 5) その他の瘻孔 6) 過去1週間100ºF(37.8ºC)以上の発熱
×20 = y4
X5. 下痢に対して lomil (Lopemin) または opiates の服用
0=なし、1=あり
×30 = y5
X6. 腹部腫瘤
0=なし、2=疑い、5=確実にあり
×10 = y6
X7. ヘマトクリット (Ht)
男(47−Ht)
女(42−Ht)
×6 = y7
X8. 体重:標準体重;100×(1−体重/標準体重) =y8


X5) の[opiates]とは,アヘン剤を指し,本邦のアヘンアルカロイドと硫酸アトロピンの配合剤であるオピアト(opiato:三共,田辺)とは異なる.

 

   
V 入院中のmanagement
1) 入院直後の検査
    入院前に全消化管の検査が終了していなければ,まず施行する.これにより,罹患範囲による病型の決定と治療方針をたてる.更に腹部超音波検査,CT,MRIなどにより,腹腔内膿瘍や胆石症,水腎症の有無,肛門周囲の状態などをチェックする.
2) 栄養療法と食事指導
 
  1. 栄養療法の選択
     病勢が重篤と判断される場合や高度な合併症を有する場合には,絶食として,4-6週間中心静脈栄養法で経過観察する.腸管を利用できる場合には経腸栄養法を行う.なお,栄養療法に際しては患者毎に栄養評価と栄養計算を行う.

  2. 栄養必要量
      投与エネルギーは,炎症反応(CRP,血沈)が軽度の場合は35-40kcal/kg/日,炎症反応が強い場合は40-45kcal/kg/日を目安とする.蛋白量は代謝亢進,需要量の増大の病態にあるため,蛋白質に換算して1.5-2.0g/kgとし,併せて必須脂肪酸欠乏を予防するために脂肪乳剤を点滴静注する.

  3. 移行栄養
      手術療法が行われた場合も含めて緩解導入したら,徐々に米飯食(+経腸栄養)に移行する.

  4. 経管挿入
      経腸栄養法は経口摂取でもよいが,再燃/再発した場合には,全エネルギーを補給する際に備え,さらには患者が在宅でも対処しうるように,経鼻チューブの自己挿入を練習・修得しておくことが望ましい.

  5. 経腸栄養
      米飯食に経腸栄養を併用する場合は,投与量は20-30kcal/日とする.使用する経腸栄養剤としては,成分栄養剤であるエレンタール®,消化態栄養剤であるエンテルード®,ツインライン®が望ましい.

  6. 食事
      食事内容は,高エネルギー,高ビタミン・ミネラル,低脂肪,低刺激食を原則とする.摂取エネルギーは炭水化物から必要量の60%以上を確保することが望ましい.
     炭水化物では小麦粉,パン酵母に対して抗原性を示す患者が多いとの意見もあり,米飯の摂取が望ましい.
     蛋白質は以前は高蛋白食が推奨されていたが,第6次改訂の日本人の栄養所要量で,成人の蛋白所要量は1.01g/kgとされ,またクローン病患者では蛋白質に対して抗原性を呈するとの意見もあり,食事での蛋白質摂取は0.6-0.8g/kgと少なくする事が望ましい(経腸栄養剤との合計では1.5-1.8g/kgの高蛋白となる).蛋白源は良質の魚介類,大豆製品,卵などがよい.
     脂肪に関しては,その摂取量が多い程再燃しやすく,1日30g以上で再燃率が高くなるとの報告がある.脂肪酸の種類では,飽和脂肪酸とリノール酸系(n-6系)脂肪酸から炎症を惹起する生理活性物質が作られている.一方α-リノレン酸系(n-3系)脂肪酸は,n-6系脂肪酸から作られる強力な生理活性物質を抑える作用を有するといわれており,リノール酸などのn-6系脂肪酸を減らし,魚油などのn-3系脂肪酸を多く摂取する事が望ましい.n-6系脂肪酸とn-3系脂肪酸の比はクローン病では明瞭な指標はないが,健康人では4:1を目安にするとされている.
     食物繊維については,神経質になる必要はないが,狭窄や痙攣による一過性の通過障害がある時は,繊維の多い食品や消化されにくい食品を避ける. ビタミン・ミネラルの必要量は,個々の患者の病状や症状によって異なるが,日本人の所要量を下回らないようにすることが肝要である.
3) 重症度や治療効果の評価
    炎症,栄養のマーカー,および末梢血球数を1−2週毎に検査する.臨床症状はIOIBD assessment scoreの推移で評価する.必要に応じてCDAIを算出する.
4) 退院の目安
    臨床的緩解となり(IOIBD≦1,血沈,CRPの正常化),栄養状態や貧血がほぼ正常域まで回復したら,退院を考慮する.画像的には主病変部のX線/内視鏡的緩解あるいは著明改善を確認する.必ずしも潰瘍瘢痕まで入院治療を継続する必要はない.
   
W 外来治療の問題点
1) 臨床検査
    1−2ヶ月毎に体重,血沈,CRP,血清総蛋白/アルブミン,血清総コレステロール,末梢血球数をチェックする.これにより,炎症の程度,栄養の状態を評価し,再燃を早期に判定する.
2 )画像検査
    臨床症状,検査成績で明らかな悪化がみられ,再燃/再発と考えられる場合は,主病変部に応じたX線/内視鏡検査を施行し,その活動度を評価する.
3) 在宅栄養療法と食事
 
  1. 在宅経腸栄養法
     薬物療法にもかかわらず易再燃例,経口摂取のみでは栄養管理が困難な症例(最近の体重減少率が10%以上,血清アルブミン濃度が3.2g/dl以下)では,在宅経腸栄養法を施行する.投与量は1,200kcal/日前後が望ましい.下痢の問題が解決できれば,経口摂取でも差し支えない.下痢は水溶性食物繊維や難消化性デンプンなどの摂取により軽減することもあるので,考慮する.確実に緩解維持をはかりたい場合には,成分栄養剤を30kcal/理想体重kg/日以上投与すれば,長期に緩解を維持できることが多い.
     緩解期であれば,半消化態栄養剤でも差し支えない. 在宅経腸栄養法で必須脂肪酸欠乏をきたす恐れがある場合には,週1回の脂肪乳剤の点滴静注を施行するか,もしくは成分栄養剤と(半)消化態栄養剤とを組み合わせることもよい.

  2. 在宅中心静脈栄養療法
      在宅経腸栄養法でも栄養管理が困難な症例では,在宅中心静脈栄養法を施行する.なお,長期に亘る経腸栄養剤および中心静脈栄養法のみの管理では,セレンの不足による筋肉痛,筋力の低下,不整脈なども報告されており,注意が必要である.

  3. 食事
      食事内容は入院中と同じく,高エネルギー,高ビタミン・ミネラル,低脂肪,低刺激食を原則とする.経腸栄養を併用している場合は,患者のQOLを考慮して,日中に必要エネルギー量の約半分を食事として経口摂取させ,夜間に経腸栄養を行うのが一般化している.病勢が悪化した場合は,経口食を減量し経腸栄養の比率をあげるスライド方式が実際的である.
     体調がよければ,栄養士と相談しながら,徐々に摂取する食品の制限を緩めることも可能である.ただし,個々の患者によって体調を悪化させる食品は異なるので,症状と食事の記録をつけるよう指導する.

  4. 再入院のタイミング
      臨床症状と検査値の悪化がみられ,薬物療法の強化および,あるいは在宅経腸栄養法の再開,増量によっても,改善が見られない場合は,再入院して絶食の上,栄養療法を施行する.
     腸閉塞症状や腹腔内膿瘍の存在が疑われる場合にも,入院の上栄養療法しながら,外科手術の適応を考慮する.
   
X 日常生活の問題点
1) 運動
   ステロイド服用中は激しい運動は避ける.学童においては見学にとどめる.しかし,ステロイド離脱後は,軽度の運動や体育の授業への参加は原則として可能である.
2) 妊娠/出産
 
  本症では,わずかに受胎能力の低下が見られるが,妊娠は十分に可能である.妊娠時期は,計画的に緩解期で薬物投与のない時期が理想的である.ペンタサ®,サラゾピリン®,プレドニン®は服用中でも比較的安全と考えられており,妊娠中に再燃が起れば,重症度に応じてこれらの投与を再開する.免疫抑制剤とフラジール®服用中は妊娠は避けるべきである.また,過剰なビタミンA投与も受胎3ヶ月前からは避けなければならない.在宅栄養療法中の患者では注意を要する.
 クローン病自体は妊娠の経過や胎児に悪影響は及ぼさず,また,妊娠もクローン病の再燃要因にはならないようである.胎児に異常が見られる頻度は,健常人のそれと差がない.
 肛門部病変の高度な症例では,会陰部保護のために帝王切開が選択されることが多い. 授乳期は一般的に妊娠中は安全といわれている薬剤でも避けた方がよい.再燃時は一旦授乳を止めて,薬物療法を開始する.
   
Y 肛門部病変の取り扱い
   クローン病の腸病変の病状をよく把握するとともに,肛門部病変も正確に診断,分類する事が重要である.
 一次性病変(裂肛,深い潰瘍,縦走潰瘍を伴う痔核様病変)に対しては,まず腸病変を緩解に導入できるように治療を開始し,肛門部病変の改善を待つ.二次性病変に対しては,肛門周囲膿瘍には可及的にドレナージを,痔瘻に対しては,開放術式,クリヌキ法,シートン法などで対処する.高度な病変や直腸膣瘻を有する症例に対しては,専門医による治療が望ましい.
 一般的には,便性状の改善,排便回数の減少,排便時間の短縮,局所の洗浄などが,治療,予防の面で重要である.
   
Z 腸管外合併症の取り扱い
   クローン病はその臨床経過の中で,種々の臓器に腸管外(全身)合併症をきたす.合併症は大きく二群に分類することができる.ひとつは腸病変による二次的な代謝異常や生理学的機序により発症する.もうひとつは,クローン病を全身性疾患ととらえ,その一部として腸管外合併症がみられるとする考え方で,免疫学的機序により発症することが示唆されている(図).
 腸管外合併症はより重症,より広範な病変を有する症例にみられ,免疫学的機序による発症が考えられている病態は,腸病変の病勢と平行し,副腎皮質ホルモンや腸切除により軽快することが多い(関節炎,眼症状,皮膚症状,など).しかし,なかには原発性硬化性胆管炎や強直性脊椎炎のように,病勢とは関係なく,腸切除によっても進行を止められないものものある.
 
腸管外合併症の取り扱い(図)
   

出典: 樋渡信夫、高添正和.クローン病患者のmanagement指針案 厚生科学研究費補助金特定疾患対策研究事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班 平成13年度研究報告書  p81〜82,2002

 

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