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GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

茨城県アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 51

IBD診療の均てん化を目指した 早期発見および早期治療介入の意義

日立総合病院 消化器内科
筑波大学附属病院日立社会連携教育研究センター 講師  越智 正憲 先生

IBD患者数は近年増加傾向にある一方、IBD診療のための専門施設や専門医、専門スタッフは限られているのが実情であり、IBDに対する医療過疎地域は全国に存在する可能性も考えられています。特にIBDは若年発症が多いため、生活や学業、就業状況等を考慮すると、早期発見および早期治療介入が重要となります。そして、長期に及ぶIBD治療において、可能な限り長期の寛解維持を図ることが出来れば、患者個人はもとより社会全体としての損失回避も期待されます。そこで今回は、IBD診療の均てん化実現に向けた取り組みの実践的なポイントについて解説いただき、併せて社会的損失の回避のために重要な治療上の留意点についてお話を伺いました。

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日立総合病院の特徴とIBD診療均てん化の重要性
 当院は、筑波大学附属病院日立社会連携教育研究センターと一丸となって、茨城県第三の都市である日立市の地域医療を支えています。日立市が位置する茨城県北部および福島県南部は、30万人を超える人口規模に対し、医師の少なさが危惧されていることから、これら地域における医療の存在感を向上させる一環として、当院が積極的に医療課題の解消に努め、地域全体の教育や研究に注力してきました。私は炎症性腸疾患(IBD)を専門としていますが、地域医療は専門分野のみでは立ち行かないため、上部消化管から肝胆膵を含めて、地域が抱える課題を顕在化させながら診療および研究を行っています。例えばこれまで、大腸ESD後の電気凝固症候群1)、ソラフェニブ治療における手足皮膚反応2,3)、B型肝炎ウイルスの病原性4)、憩室出血に対する造影CTの有効性5)などについて報告してきました。特に、憩室出血に関する論文は米国の診療ガイドラインにも引用されています6)

 

 IBDに関して、本地域は専門施設および専門医と専門スタッフが患者人口に比べ少なく、これまで非専門施設がIBD診療を担当せざるを得なかったことから、粘膜治癒の確認などが十分ではなかったのが実情でした。そこで、私の着任を契機として、日立総合病院を地域全体におけるIBDセンターと捉え、地域医療連携を推進することにより、潜在しているIBD患者の発見に努め、粘膜治癒を目標とした集学的治療の提供を目指すこととしました。

 

 適切なIBD診療が浸透していない場合、IBD確定診断まで時間を要したり、不十分な病態コントロールにより、社会的損失の発生が危惧されます【1】。実際に、日本のIBD患者172名に対するアンケートでは、32.0%がパートタイム労働や在宅作業に移行した経験があり、35.5%はIBDが原因で失業した経験があると回答していました7)。特にIBDは若年発症が多いため、進学や就職、結婚などのライフイベントを疾患と共に乗り越える必要があり、疾患のコントロールが人生に大きな影響を与える可能性も考えられます。

 

 私の経験でも、非専門施設において正しくクローン病(CD)と診断されず、不十分な治療により5年以上も症状を我慢して働き続けた若い患者さんを診療したことがあります。世界保健機関(WHO)は、健康問題に起因する生産性の低下に関して、欠勤や休職などのアブセンティーイズムに加え、パフォーマンス低下などのプレゼンティーイズムも重大であることを提唱していますが、IBDはこの双方に対して長期間影響を及ぼす疾患です。すなわち、IBDが適切にコントロールされない場合、入院などのアブセンティーイズムはもとより、日常的な腹痛や頻回な排便などのプレゼンティーイズムも生じてしまうことから、生産性への大きな影響が危惧されます。特に近年、人口の減少と高齢化の進行により日本の労働力人口の減少が懸念される中8)で、IBD患者数は増加を続けていることから、IBDによる社会的損失は、日本全体で解決すべき課題の一つではないかと私は考えます。

 

 IBDによる社会的損失の抑制のためには、早期発見と早期治療介入、そして長期の寛解維持が重要となります。その実現に向けて、STRIDE-II9)の治療目標である「短期的には臨床的寛解」「中期的にはバイオマーカー的寛解」「長期的には内視鏡的治癒」を目指す診療体制が日本のあらゆる地域で等しく整備されること、すなわち"IBD診療の均てん化"が望まれます。このような治療目標を達成するためには、個々のIBD患者における多様な病態に対応すべく豊富な治療選択肢を用意する必要があります。しかし茨城県内の、ある10万人超の市町村では、IBDに対して血球成分除去療法(CAP)が殆ど行われていないなど、地域によって治療選択肢が限られているのが実情です。分子標的薬も数多く開発され、病態のみならず就労状況などの日常生活も鑑みたオーダーメイド医療が望まれている中、地域に関わらず最適なIBD診療を提供するための均てん化の実現は、日本全体における生産性向上の観点からも意義が大きいと考えています。

 

 

IBDに対する再燃抑制を重要視した治療戦略について
 社会生活への影響が大きいIBDの再燃について、2012~2019年の全国DPCデータより抽出した6,715名のIBD患者を対象に、リアルワールドデータにおけるステップアップ(SU)療法とトップダウン(TD)療法の成績を比較しました10)。その結果、1年および5年経過時の累積再燃率は、CDのSU療法で30.7%→58.6%、TD療法で32.9%→61.3%であり、いずれも群間に有意差は認められませんでした。潰瘍性大腸炎(UC)も同様に、SU療法で35.2%→51.6%、TD療法で33.5%→50.0%と、やはり群間に有意差は示されませんでした。

 

 特にCDの再燃に関しては、従来の臨床試験においてTD療法の優位性11)が示されていただけに、日本のリアルワールドデータと乖離が生じた本結果に注目する必要があります。この乖離の一因として、DPCデータではCDの確定診断からTD療法の実施まで、平均2年以上を要していた点が重要と考えます。すなわち、この2年超の期間において、TD療法による治療効果が最も期待できる時期、いわゆるwindow of opportunityを逸した可能性が高く、腸管ダメージの蓄積によってSU療法との間に差が生じなかったのではないかと推察されます。今後、IBD診療の均てん化が進み、最適化されたCD治療が全国に広がることによって、リアルワールドデータにおいてもTD療法が再燃抑制に寄与すると期待しています。

 

 現在のIBD診療において、再燃抑制の観点から重要なのは粘膜治癒の達成であり、自覚症状改善のみを目標とするのではなく、MES (Mayo Endoscopic Score)やSES-CD (Simple Endoscopic Score for Crohn's Disease)などの内視鏡所見スコアを用いて定量化を行い、粘膜治癒を目指す方針が望まれます。なお、内視鏡検査を実施するタイミングについては、IBD専門医でも悩むケースが多いことから、便中カルプロテクチン(FC)やロイシンリッチα2グリコプロテイン(LRG)などのバイオマーカーを、より積極的に活用すべきと考えます。

 

 

UC治療における維持療法を含むGMAへの期待
 UCにおいて、FCなどによりUC再燃の兆候を捉えた場合、まずは5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤を増量しています。それでも反応性に乏しいケースに対して、一般的にはステロイドが用いられますが、無計画なステロイド治療はステロイド依存のリスクを上昇させる点に注意が必要です。特に近年、ステロイド開始時の投与量が不十分だと、それが長期投与に繋がることが報告されています12)。再燃時、ステロイドの短期的な適量使用以外は、可能な限り投与を避けることが望ましいと考えられます。

 

 UC治療におけるステロイド総投与量の減少に向けて、私は多施設共同無作為割付比較試験13)の結果を踏まえ、顆粒球吸着療法(GMA)に期待しています。当院の寛解導入では、intensive GMAが中心であり、週2回の計10回施行を基本としていますが、特に若い患者さんのご家族は安全性を重要視される場合が多く、非薬物療法であるGMAへの理解が得られやすい印象があります。UC治療において、重篤もしくは予期せぬ副作用が発現すると、患者さんの社会生活へ大きな影響を及ぼす可能性もありますが、GMAは20年を超える臨床経験を重ねており、副作用への対応14)がある程度確立している点の意義は大きいと考えます。

 

 UC再燃時の薬物療法として、ステロイド治療における副作用などの面から接着分子であるインテグリンを標的とした治療が期待されており、当院においても経口α4インテグリン阻害薬を選択肢の一つとして活用しています。具体的には、経口α4インテグリン阻害薬を8週投与しながら、STRIDE-II9)に則ったバイオマーカーによる寛解評価から内視鏡的治癒を目指すこととなります。ここで、バイオマーカーによる疾患活動性評価で寛解を達成してもMES 1に留まるようなケースでは、MES 0の達成を目指すための治療戦略として、寛解維持療法時に5-ASA製剤を最大用量投与することや、2週に1度のGMA上乗せによる治療強化も選択肢の一つであると考えます【2】。実際にGMAは、CAPTAIN study15)において、維持療法52週時の完全粘膜治癒率(MES 0)は、対照群19.8%に対しCAP上乗せ群33.8%でした(p=0.0513)。なお、維持療法開始時点からの完全粘膜治癒率の変化では、対照群が1.2%減少したのに対し、CAP上乗せ群では3.4%増加していました。

 

 この他にも、UC難治例に対する寛解導入において、抗IL-12/23抗体製剤を用いる際、効果発現までの期間を補う目的でGMAを併用する場合も少なくありません。そして、寛解維持療法に移行後も2カ月に1度の抗IL-12/23抗体製剤と2週に1度のGMAを併用しながらMES 0を目指す治療戦略が有用と考えており、今後のエビデンスの構築に期待しています。

 

 最後に、IBD患者さんの病悩期間は長期に及ぶため、安全性の高い治療が望まれます。今後、IBD診療の均てん化が進み、地域に関わらず粘膜治癒の達成率が向上すれば、結果的に再燃率も低下し、ステロイドの累積投与量減少も期待されます。IBD患者さんが安心して社会参加できるように、私たちIBD専門医は最適化された治療の追求と普及に注力していきたいと考えています。

日立総合病院_越智先生_図表.jpg

1) Ochi, M. et al.:World J Gastroenterol. 2021;27(38):6442-6452.
2) Ochi, M. et al.:World J Gastroenterol. 2018;24(28):3155-3162.
3) Ochi, M. et al.:World J Gastroenterol. 2021;27(32):5424-5437.
4) Ochi, M. et al.:Biochem Biophys Res Commun. 2020;529(2):198-203.
5) Ochi, M. et al.:World J Clin Cases. 2021;9(11):2446-2457.
6) Sengupta, N. et al.:Am J Gastroenterol. 2023;118(2):208-231.
7) Ueno, F. et al.:J Gastroenterol. 2017;52(5):555-567.
8) 令和4年版厚生労働白書(令和3年度厚生労働行政年次報告)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/21/dl/zentai.pdf (2023年3月15日現在)
9) Turner, D. et al.:Gastroenterology. 2021;160(5):1570-1583.
10) Ochi, M. et al.:Int J Colorectal Dis. 2021;36(10):2227-2235.
11) D'Haens, G. et al.:Lancet. 2008;371(9613):660-667.
12) Matsuoka, K. et al.:J Crohns Colitis. 2021;15(3):358-366.
13) 下山 孝 ほか:日本アフェレシス学会雑誌. 1999;18(1):117-131.
(利益相反:本研究はJIMROの資金提供を受けて行われた。)
14) 宮川 浩之 ほか:日本アフェレシス学会雑誌. 2006;25(3):240-243.
15) Naganuma, M. et al.:J Gastroenterol. 2020;55(4):390-400.
(利益相反:本研究はJIMROからアダカラムの提供を受けて行われた。)