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医療関係者の方へ

GMAのこれまでとこれから:GMAのクリニカルパール探求

Adacolumn Clinical Pearl

アダカラムインタビュー記事シリーズ

GMA 20年をこえる臨床知見からの提言

全国の先生方より、消化器および皮膚領域における最新の診療状況を踏まえた上で、様々な視点から顆粒球吸着療法(GMA)の日常診療における活用方法や工夫、メリットや課題についてお話いただきます。

IBD:炎症性腸疾患、UC:潰瘍性大腸炎、CD:クローン病、PP:膿疱性乾癬、PsA:乾癬性関節炎(関節症性乾癬)

※先生のご所属先および役職、治療指針等は掲載時点の情報です

鹿児島県アダカラム
インタビュー記事シリーズVol. 17

IBD治療におけるチーム医療とSDM

いづろ今村病院
副院長・内科主任部長
大井 秀久 先生
(現 今村総合病院 IBDセンター長)

IBDは若年で発症することも多く、治療は長期にわたるため、患者は学校生活、就職、恋愛、結婚、子供の誕生、昇進による責任の増加等、人生の様々なステージで新たな悩みや課題に直面します。そこで今回は、これらの課題に対処するため、多職種によるチーム医療の必要性、そして、チームでSDM(共同意思決定)をおこなうことの重要性について解説いただきました。

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いづろ今村病院におけるIBD診療の実際

 当院では炎症性腸疾患(IBD)の患者に対して、一般の消化器内科とは別にIBD外来を設置して専門的な医療を提供しています。当院における現在の患者数は、潰瘍性大腸炎(UC)が約340名、クローン病(CD)が約180名です。

 患者は当院が立地する鹿児島市内だけでなく、鹿児島県全域、離島からも来院しており、各地域の先生方からご紹介いただいています。IBD患者数の著しい増加に伴い、2015年に独立した診療科を作りました。

 検査は、UCの場合は下部消化管内視鏡検査が主となりますが、CDの場合は大腸だけでなく小腸も含めた消化管全体を評価しなければいけないので、X線造影検査が必要です。当院では初診の場合はX線造影検査を、その後の経過観察のときは患者にできるだけ負担がかからない方法を採用するといった使い分けをしています。

 顆粒球吸着療法(GMA)の最大のメリットは、安全性の考慮が必要な患者に対しても選択肢の一つになることと私は考えています。当院でGMAを施行した21例中、6例は感染症合併例、5例が免疫抑制剤使用中、8例がステロイド製剤使用中の患者です。また近年は5-ASA製剤にアレルギー反応を示す患者も見られますが、そのような患者にも比較的安心してGMAを施行しています。

 GMAの施行には臨床工学技士が立ち会っており、60分の治療中に患者と対話することで様々な情報を収集しています。患者は医師には言い難いことでも臨床工学技士や看護師には話してくれることがあり、臨床工学技士は患者から聞き取った情報をすべてカルテに記載して情報共有するようにしています。GMAは患者情報を収集する貴重な機会にもなっています。

 

多職種によるチーム医療を実践  

 IBD外来では多職種からなるチーム医療を実践しており、メンバーはIBD担当医師、IBD外来・化学療法室担当看護師、内視鏡センター担当看護師、外来担当看護師、病棟担当看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床工学技士、理学療法士、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー(MSW)、医療事務、診療情報管理士、医療クラークです。

 チームの目標は「患者さんの社会復帰」です。患者はIBDを発症すると、命のことから経済的なことまで様々な不安を覚えます。また治療は長期にわたるため、患者の生活環境は変化し、人生の様々なステージで新しい悩みや課題に直面します。これらは医師だけで対応できるものではなく、多職種がそれぞれの分野の専門知識を生かして、連携しながら患者をサポートしていく必要があります【 上段】。

 チームが介入した一例を紹介します。10歳代男子、小腸大腸型CDで当院に入院し、IBDチームで退院後の生活について検討しました。疾患に対する不安や運動系の部活動を継続したいという希望があり、患者・家族ヘパンフレットを使用して看護師より疾患を、MSWより小児特定疾患制度について説明を行いました。寮生活の継続も希望していたので、仲の良い友人と同室にしてもらうよう学校に依頼し、薬剤師は飲みやすい剤型を選択、看護師は経腸栄養療法の指導をおこない、寮生活でも実行可能な治療スケジュール表を作成しました。また、食事は栄養士より、脂質の多い食品の説明、CDを増悪させにくい食事の選択法やレトルト食の持ち込みを提案し、食事療法の継続を指導しました。退院後は外来看護師が、疾患・治療や生活についての不安の聞き取りを行いました。アドビアランスが良好だったため、体重が増加し部活動の試合にも参加、引退まで寮生活継続が可能でした1)

 院内だけでなく、地域の診療所もチームの一員と私は考えています。病診連携として、かかりつけの先生方が医師同士だけでなく、スタッフとも直接やりとりできる関係を築いており、スタッフは各診療所がどこまでの治療が実施可能かを把握しています。

 スタッフには常に最新の治療法の勉強が欠かせず、チーム結成当初は何度も勉強会を重ねました。現在は相当に高い力量があると自負しており、人事異動等で担当者が変わった場合は、チーム全員で新メンバーを教育し、サポートしています。

 

チーム医療と親和性が高いSDM

 治療法を選択する際は共同意思決定(SDM: Share Decision Making)が重要で、私はこの概念をもっと普及させる必要があると考えています【 下段】。安全面のリスクが低く効果が高い治療法であればSDMは必要ありませんが、現状ではIBDに寛解率100%の治療法はないので、患者としっかり話し合って、その上で何を選択するかを決めて行かなければなりません。

 このSDMとチーム医療は親和性が高く、それぞれの職種が関わる各現場において患者と向き合い、それらを総合して全体のSDMができるものと私は考えます。たとえば、GMAは安全性の考慮が必要な患者に対しても選択肢の一つと考えておりますが、必ずしも全例に有効とは言えず、穿刺痛もあります。患者によって我慢できるという患者もいれば、痛いのは絶対に嫌という患者もいます。しかし、それを医師に正直に話しているとは限らないので、他職種のスタッフが患者の本音を聞き出すことが大切です。その上で一度試してみて、大丈夫だから続ける、あるいは耐えられないから止めるという選択もあって良いと思います。いつでも治療を中断できるので「試してみる」という選択が可能なことも、GMAのメリットであると私は考えています。

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1) 中村 久恵, 大井 秀久 ほか:日本消化器病学会九州支部例会プログラム・抄録集, (112), 110, 2018(112回日本消化器病学会九州支部例会, 201811)