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【記事】高齢者におけるフレイル問題について

札幌医科大学 医学部 消化器内科学講座 教授 仲瀬裕志先生

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フレイルとは
フレイルとは、加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態であり、要介護状態に至る前段階として位置づけられています。1 身体の衰えだけでなく、精神・心理的問題や社会的問題などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいことが特徴です。なお、フレイルはしかるべき介入により再び健康な状態に戻るという可逆性を有しており、適切な介入により生活機能の維持・向上を図ることが期待されています。

 

フレイルの原因
フレイルを構成する要素は、主に以下の3つが挙げられます。
 身体的フレイル ・・・ サルコペニア、ロコモティブシンドローム
 精神・心理的フレイル ・・・ 認知機能の低下、うつ状態
 社会的フレイル ・・・ 閉じこもり、経済的困窮

これらの要素は互いに関連し合い、フレイルを進行させると考えられています。
また、このほかにも、フレイルの原因として心疾患や糖尿病といった慢性疾患も挙げられます。ここ数年で、注目されるようになっているのは、心血管疾患患者における悪液質・筋肉の衰えとフレイルとの関係です。老化現象や心血管疾患の併発により筋肉量が減少する一方で、脂肪体重は比較的維持されるため、高齢者では特に消耗性症候群やフレイルになりやすいのです2)

 

フレイルの基準
フレイルの基準にさまざまありますが、米国のFried3)が提唱したものが国際的によく用いられています。また、2020年にはFriedらの基準を日本人高齢者向けに改変した、日本版CHS基準(J-CHS)が発表されました4。 J-CHSでは5項目のうち3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはフレイルの前段階であるプレフレイルと定義されています。

図表1_フレイル定義の表_一部改変案.jpg

サルコペニアとは
サルコペニアは、加齢に伴う筋機能の低下と定義され、フレイルの主要な要素となっています。筋肉量および筋力の低下は、脆弱骨折などの急性疾患の予後不良と関連します。また、サルコペニア罹患率は年齢とともに増加し、高齢者(65歳以上)の股関節骨折患者では、1774%にサルコペニアが認められます。そのため、サルコペニアの診断、治療、予防は、高齢者の日常診療の一環として行うことが推奨されています。歩行速度と握力は簡単なスクリーニング検査ですが、急性股関節骨折患者では実施不可能です。筋肉量の測定はCTスキャンや、インピーダンス法や体格測定法で行うことができます。さらに、筋機能に関する簡単な質問票であるSARC-Fツールは、サルコペニアの程度を評価することができます56

 

フレイルと炎症
Inflammagingはinflammation(炎症)+aging(加齢)から作られた言葉ですが、フレイルの根本的なメカニズムであると考えられています。いくつかの研究では、フレイルとさまざまな炎症性メディエーターの濃度変化との関係の可能性が検証されています。Soysal7らが行ったシステマティックレビューおよびメタ解析では、フレイルおよびプレフレイルはCRPおよびIL-6の高値と関連するが、TNFαとの有意な関連は認められなかったと報告されました。このメタ解析が発表された後、さまざまな炎症メディエーターとフレイルとの関係を評価したいくつかの新しい横断的研究が発表されています8

 

フレイルとIBD
炎症性腸疾患(IBD)においてもフレイルが注目されています。近年、日本においても高齢者IBD患者が増加傾向にあります。Kocharらは、IBD患者のコホートを用いて、フレイルを有するIBD患者と死亡率との関連を検討しました9)。方法は、IBD患者11,001人のコホートにおいて、国際疾病分類コードを用いて検証されたフレイルの定義を適用し、フレイルを有するIBD患者と、フレイル持たない患者(以下「fit」とする)を比較しました。臨床的に重要な交絡因子(年齢、性別、人種、IBDのタイプ、追跡期間、IBD関連の手術、Charlson comorbidity indexCCI)で1つ以上の併存疾患、免疫抑制剤の使用)を調整した多変量ロジスティック回帰モデルを構築し、フレイルが死亡率を予測するかどうかを検討しています。675名(6%)のIBD患者がフレイルを有するということが判明しました。フレイルの有病率は年齢とともに増加し、2029歳の患者群では4%、90歳以上の患者群では25%でした。最も多く見られたフレイル関連疾患の診断は、タンパク質・エネルギー栄養失調でした。年齢、性別、追跡期間、併存疾患、IBD関連手術の必要性、免疫抑制の使用を調整しても、フレイルは死亡率と独立して関連していました(OR2.9095CI2.29-3.68)。結論として、フレイルは、IBD患者に多く見られ、年齢とともに増加することが明らかとなりました。従って、フレイルによって患者をリスク層化することで、IBD患者の転帰を改善できる可能性があると述べられています。

また、高齢者は若い人と比較して、獲得免疫機能が低下する傾向があるため、高齢者IBD患者の治療を行う際には、常に感染症に注意を払う必要があります。一方で、感染症のリスクは患者の年齢や併存疾患のみでは、十分に判断することができないのも事実です。Kocharらは、IBDに対する免疫抑制治療後の感染症リスクとフレイルとの関連を明らかにすることを目的とした研究を前述のコホートを用いて行っています10)。抗TNFα抗体製剤が投与された患者の5%、免疫調整剤を投与された患者の7%がフレイルを有しており、フレイルを有する患者群は高齢で、より多くの合併症を有していました。また、フレイルを有する患者は、治療後に感染症を発症する割合が高いことがわかりました(抗TNFα抗体製剤投与後19%、免疫調整剤投与後17%。両群ともフレイル患者対fit患者でP< 0.01)。さらに、フレイルを有する患者は、年齢、合併症、併用薬を調整しても感染リスクが高いことが示されました。(抗TNF調整オッズ比 2.0595%信頼区間 1.073.93])(免疫調整剤 調整オッズ比 1.8195%信頼区間 1.22-2.70])。これらの結果より、フレイルを改善する戦略が、IBD患者の感染症リスクを低減につながることが示唆されています。

 

フレイル予防のために
IBDをはじめとする慢性疾患を有する高齢患者にとって、フレイル予防は重要な課題といえます。その対策として、1)疾患活動性のコントロール、2)運動療法による筋力低下予防、3)タンパク質を含んだバランスのよい食事、4)積極的な社会活動への参加などが挙げられます。このような介入をおこなっていくためには、医師のみならず、看護師、栄養管理士、薬剤師などのMedical staffとの協力体制のもと、患者管理をおこなっていく必要があります。

 

最後に、フレイルは、明確な固有の原因があって引き起こされるというよりも、加齢に伴うさまざまな心身の変化と社会的、環境的な要因が重なりあうことにより起こります。これらの原因は相互に影響し、患者は徐々にフレイル状態となっていきます。この負のサイクルを放置しないようにすることが、慢性疾患患者の治療反応性ならびにQOL向上につながることを我々臨床医は知るべきです。

 

参考文献

  1. 荒井秀典. フレイルの意義. 日本老年医学会雑誌.201451497―501.
  2. Bielecka-Dabrowa A, et al. Cachexia, muscle wasting and frailty in cardiovascular disease. Eur J Heart Fail. 2020;22(12):2314-2326.
  3. Fried LP, et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol Ser A Biol Sci Med Sci. 2001;56:M146-M157.
  4. Satake S, et al. The revised Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria (revised J‐CHS criteria). Geriatr Gerontol Int. 2020; 20(10): 992-993.
  5. Kim S, et al. Validation of the Korean Version of the SARC-F Questionnaire to Assess Sarcopenia: Korean Frailty and Aging Cohort Study. J Am Med Dir Assoc. 2018;19(1):40-45.e1.
  6. Milte R, et al. Musculoskeletal health, frailty and functional decline. Best Pract Res Clin Rheumatol. 2014;28(3):395-410.
  7. Soysal P, et al. Inflammation and frailty in the elderly: A systematic review and meta-analysis. Ageing Res Rev. 2016;31:1-8.
  8. Marcos-Pérez D, et al. Association of inflammatory mediators with frailty status in older adults: results from a systematic review and meta-analysis. 2020;42(6):1451-1473.
  9. Kochar B, et al. Frailty is independently associated with mortality in 11 001 patients with inflammatory bowel diseases. Aliment Pharmacol Ther. 2020;52(2):311-318.
  10. Kochar B, et al. Pretreatment Frailty Is Independently Associated With Increased Risk of Infections After Immunosuppression in Patients With Inflammatory Bowel Diseases. 2020;158(8):2104-2111.e2.

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